• テキストサイズ

日章旗のデューズオフ

第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「可哀想に……。良く頑張ったな……」
繰り返される同情の言葉。疑う余地も無い慈悲の言葉。親父や兄や姉達に掛けて欲しくて堪らなかった言葉たち。嘗ては喉から手が出るほど望んだその一言を、密着する身体から振動として受け取った瞬間、枯れたと思い込んでいた涙が視界を覆う。
「……安心しなさい。これからは、私が守り抜こう」
吹き込まれた低い声に、瞠った瞳から鱗が落ちた。或いは涙の一粒だったのかもしれない。雇い主の為に命を投げ出すよう教育された俺へ向かって『守る』と発言する事は、忍の常識を全否定すると同義だったから。
俺に特筆すべき利は無いと、宇髄名前は大人の庇護が必要な普遍的な子どもでしかないと、言い示したに他ならなかった。良いのかな、普通の子どもで。
敵陣に斥候として侵入しなくても、情報提供の代償として脂下がる饐え臭い奴を相手に褥を濡らさなくても、良いんだ。悲鳴嶼が居る限り。此処に居る限り。
「約束だ」
俺が堰を切ったように声を上げて泣き始めると、脆く崩れるものに触れるようだった力加減は遠慮無しになり、形振り構わず痩せぎすな身体を掻き抱いてくれた。
骨身まで染み入る愛情に溺れかけて、咄嗟に彼の胴腹へ腕を回して縋り付きたかったが、みすぼらしい細腕ではそんな事すら叶わず、隊服を掴むほどが限界だった。
(……)
――悲鳴嶼は言った。俺を守り抜くと言った。そして八年もの間、約束を違わずに俺を守り抜いた。彼が入隊するまでの経緯を思えば、込み入った事情が有りそうな餓鬼など絶対に手元へ置きたくなかっただろう。
世話など勘弁願いたかっただろう。さぞかし苦痛の日々だっただろう。それでも見捨てずにいたのは、本来の彼が持ち合わせる利他の心が残酷な真似を思い留まらせていたに違いなくて。
(……)
……そう、分かっていた。分かっていたんだ。悲鳴嶼には初めから俺を継子として育てる気など毛頭無かったのだと。俺を守るのならば、戦地へ赴くに値する力など育てる筈が無い。
そして、師と云う立場を逆手に取り、限り有る僅かな力を取り上げ続けた。真意が理解出来ない周囲にどれだけ揶揄されようが、ただ一つの約束を貫く為に。

***

引き攣る喉を抑え付けながら深呼吸をひとつ。意を決して正座に居直し、打って変わって「お引き受け致します」と歯切れの良い返事を投げれば、悲鳴嶼は露骨に安堵の表情を浮かべた。

/ 190ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp