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日章旗のデューズオフ

第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「名前、空蝉に呼吸を仕込んだのちも前線で戦う事は断じて禁ずる。有事の際は救護と防衛に尽力するように」
「……畏れ入りますが、発言をお許し下さい」
「……なんだ」
「救護と防衛に徹せよという事ならば何故、全ての呼吸を見る必要があるのでしょうか。防御に特化した型のみをお見せ頂くだけでも事足りるのでは」
「……、……目先の――」
良く通る声を持つ自覚があったのだが、何故か悲鳴嶼は聞き漏らしたかのように一拍遅れて反応を示した。不機嫌な猫の尾のように悶え回っていた苛烈極まりない気魄も、俺が疑問を投げ掛けた途端にビタッと硬直する。その理由は続く回答に有ると直ぐに分かった。
「――目先のお前の修練が目的では無いからだ。今後、上弦の鬼や鬼舞辻無惨と対峙した際、万が一にも大打撃を被って柱が全滅した場合、次世代へ呼吸を繋いでいく為の依り代が必要となる」
「依り、代……」
「お館様に歴代最高と言わしめた、勝算のある世代の悉くを途絶えさせてはならない。空蝉へ全ての呼吸を仕込み、伝承させる事で、次なる好機へ備えられる。あくまで、その為だ」
「…………」
『柱が全滅』という不吉な言葉が霞むほど、課せられた責務の荒唐無稽さに衝撃を受けて絶句した。だから俺に八年もの長い間、空蝉を使わせなかったのだろうか。早くに俺が壊れてしまえば、依り代に利用する計画が崩れてしまうから。この日の為に、この刻の為に、俺は生かされていたとでも云うのか。
(俺の身体を、心配していたわけでは、なかった……?)
俺を継子として育てる気など無いのでは……過去に何度も散らしてきた愚かしい疑念が此処にきて真実味を帯びてしまった。振り返れば、彼は師と云う立場の割に、力を取り上げ続けたように思う。
(……)
悪鬼滅殺に必要不可欠な日輪刀と全集中の呼吸は取り上げなかったけれど、鬼を斬らずとも鬼殺隊士で在れる方法だってあったのに、戦う選択肢を残したけれど。それも剣技に慣れさせておく為に妥協した部分だったのだろうか。
そして、いよいよ全てを放棄させて、後の世に生を受ける未だ見ぬ奴らの為に空蝉を温存しろという。鬼に人生を狂わされながら今を必死に生きる皆の為には……堅気の人間や、お館様や、柱達や、後輩や、友の為には使うなという。

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