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日章旗のデューズオフ

第11章 【捌】悲鳴嶼&宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



「分かった分かったァ、一先ず黙ってやらァ」
言いたい事を言えて満足したのか、あっさり横槍を引き上げた後は、恰も衒う様に懐から取り出した物で手遊びを始めた。順繰りに指の間へ挟んで渡す、親指の関節上で旋回させるといった動作に集中する自由な姿は溜め息を誘発する。
(……って、あ!)
善く善く見ると、あれは俺の峨嵋刺だ。慌てて己の懐を探るように叩くが、やはり一本紛失している。そういえば鍔迫り合いをした後に回収した覚えがなかった。いつの間に奪われたのだろうか。脇差も後藤の手に渡っている事を芋蔓式に思い出しながら眉宇を歪める。
峨嵋刺は鏃型の刺針を持ちながらも見た目の凶暴さは殆ど無いといって等しく、武具と説明されなければ簪や笄を想起させるような造りだ。場合によっては時計の針と間違える人も居るかもしれない。
勘違いされたとて、少なくとも髪を結い上げる必要のない彼が持つ物としては異質である。だからこそ峨嵋刺が風柱殿の所有物だと思う者は先ず居ないだろう。託けて誰も仔細を問わずにいるのは、やはり空気ゆえか。
「……他に口を挟む者は居るか」
見た目不相応に温厚な悲鳴嶼も、度重なる挑発の末では苛立ちを抑え切れないらしく、俺を叱る時よりも割り合い増しで威圧感を振り撒いている。流石の柱達もそんな男を前にして「其れは何」と無駄口など叩けよう筈も無かった。

***

「柱へは一足先に説明を済ませてあるが、提案を実現する上で不可欠な者達が揃ったので、今一度伝える。基本となる五大流派とその派生……現存する全ての呼吸を、私の継子へ叩き込んで欲しい。開始は日の出と同時とする。とはいえ――」
「――え?」
無意識に飛び出した不躾な一声を慌てて噛み殺した。風柱殿の二の舞には成りたくない。血の気が引く額から滲み出た冷や汗をそのままに、唇へ母指球を押し当てて物理的に口を噤む。悲鳴嶼の言葉尻を掻き消した軽率さを、果然誰一人として咎めない事が些か底気味悪くあったが、却って好都合か。
上座に在る彼も俺の呟きが聞こえていた筈なのに「――本人に型を見せるだけで構わない」と続けた為、見逃されたのだと胸を撫で下ろす。これ以上の不興を買わないよう、言葉を選ばなくては。

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