第1章 デートの後で…
「嘆かわしい!」
「?!」
「実に、嘆かわしいですぞ、そこのご両人!!」
茂庭と笹谷が声に驚いて顔を向けると、壇上で演説をかましていたはずの鎌先が、二人のすぐ傍に立っていた。暑苦しい勢いはそのままに、鎌先が二人の肩をがっしりと掴む。
「君達は、この決起大会に参加しないのかね?!」
「しない。ていうかその口調やめろ。変だから。似合ってない。鎌ちぽくないし、あんまり無理して頭使うと熱出るぞ」
嫌そうな顔で笹谷がそう言うと、鎌先の口調はいつものものに戻った。笹谷の指摘通り、いくらか無理して格好つけた喋り方をしていたらしい。
「ハァ?! 熱とか出さねぇし! 知恵熱出すとかお子ちゃまか?! 俺はお子ちゃまなのか?!」
「精神年齢は限りなくお子ちゃまだろうな」
「なにぃー?!」
「あぁ、もう、二人ともやめろよ! 鎌先もさ、もうすぐ社会人なんだし、ちょっと落ち着こうぜ」
茂庭が鎌先と笹谷の間に割って入ると、気がそがれたのか鎌先はため息一つついて教室から出て行った。
決起大会の主催者の後を追って、シュプレヒコールを上げながら大会の参加者達も教室を出て行った。
教室に残った生徒達は互いに顔を見合わせては、先ほどまでの異様な盛り上がりを口にしている。
「笹谷もハッキリ言うなぁ……ビックリしたよ」
「悪い。でも俺はもらうアテあるからな」
「あー…そっかそっか。いいなぁ、そういうの羨ましいよ」
「茂庭ももらえそうなんじゃなかったっけ?」
「いやぁ、どうだろう?」
「当日のお楽しみだな」
「でもなぁ、もらったらもらったで鎌先が怖い」
「……確かに。あの勢いで絡まれたら面倒くさいな」
先ほどまでの白熱した鎌先の様子を見ていれば、バレンタイン当日大荒れになるのは想像に難くなかった。
ましてや身近な存在の笹谷や茂庭がチョコを、それも『本命』と名の付くものをもらったと知ったなら……鎌先は一体どうなってしまうのだろうか。
一抹の不安とともに、笹谷と茂庭はバレンタイン当日を迎えることになる――……。