第1章 デートの後で…
「鎌先くんは、私のヒーローなんだ。初めて出会った時から、ずっと」
大袈裟だって言うかもしれないけど、と付け足したの顔も鎌先と同じように赤い。ここでぐっとを抱き寄せてしまいたい衝動に駆られたものの、さすがに周囲に人がいる場面では恥ずかしさの方が勝ってしまったようで、鎌先は俯いて後頭部を掻くだけだった。
「俺がお前のヒーローなら……は、俺の……ひ、ヒロイン、だな」
口にしてから、なんとこっぱずかしい言葉を吐いてしまったものかと、鎌先は後悔した。俯いたままそんな言葉を口にして、がいやに静かだったのが気になった鎌先はゆっくりと視線をあげた。
視界にとらえたの顔は耳まで赤い。そして緩みきった笑顔。どんなに恥ずかしいセリフも、こんな彼女の姿が見られるのなら、口にするのも悪くないかもしれない。なんてことを、鎌先は柄にもなく思ってしまった。
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「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日。……帰ったら、メールするね」
「お、おう」
電車に乗り込んだの姿を、鎌先は名残り惜しそうに見つめていた。も名残惜しいと思うのは同じで、そっとドアに手を当てている。が何も言わずとも、鎌先もそこにそっと手を添えた。
分厚いガラスを隔てているけれど、ほんのり相手の熱が伝わるような気がする。二人ともそんなことを考えながら、発車のベルが鳴るのを手を合わせたまま待った。
発車の時刻が迫り、駅員の笛の音がホームに響く。アナウンスで電車から離れる様に注意されてようやく、鎌先は合わせていた手を離した。
流れていく電車を、鎌先はただじっと見送る。最後尾の車両が緩やかなカーブに消えて行ったのを確認して、鎌先はようやく自分の乗る電車のホームへと向かいだした。
「鎌先」
ふいに声をかけられて、鎌先がそちらに目をやると、伊達工の制服を着た生徒が数人こちらに近づいてきていた。鎌先はその生徒達をどこかで見たような気もしたが、はっきりと思い出せずにいた。
けれど向こうは鎌先のことをよく知っているようなそぶりで、ずんずんと近づいてくる。その顔は心なしか腹を立てているようにも見える。
何か恨みを買うようなことをしたか? と自分の言動を顧みても、鎌先に思い当たる節は無い。