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紅の君

第7章 愛しい影


「大した腕じゃの。

さぞかし長(な)げ間修行したろじゃろ。」

『それはもう・・・死ぬより辛いものでした。』

久忠は少し辛そうに、そいでも

誇らしげに笑(わ)れそう言(ゆ)た。

「でもなぜ俺(おい)の家に来た?

なぜ島津を選(え)った?」

『貴方様の叔父上様に拾われた身ですから

お仕えするのは当然です。』

「そうかそうか・・・こしこ強ければ島津の

名に恥じないじゃろ。こいかあ宜しくな」

『・・・っ!、この久忠、島津の名にかけて

お仕えいたします。』

そいかあはめつらん拍子(ひょし)じゃった。

朝鮮へ行(た)っ、多(う)おの戦を共に

駆け抜けた。そん月日は7年も

過ぎた。

「後はお前の知っちょっとおりだ」

『その野風という女人は、心から豊久様を

愛していらしたのですね・・・島津の者では

ないこの久忠にもその恋慕の情が伝わって

きます・・・』

「そうだな・・・こしこ愛しいと

時々(とっどっ)心が掻き乱されるよな

心地になる。別人だちゅうのに

お前を野風と思(おも)てしまう・・・」

その言葉と共に豊久はそっと

久忠の肩を抱き寄せる。その仕草は誠に

愛しい女を抱き寄せるようなそれであった。

『と、豊久様・・・?今宵は何だかいつもと

ご様子が違います・・・大丈夫ですか?

久忠に出来ることがあれば何なりと

お申し付けください・・・辛そうなお顔の

豊久様は見たくありませぬ・・・・・』

【何でも】という言葉に豊久はピクリと

眉を動かした。

「何(ない)でん・・・?ほんとうに

何(ない)でんよかのか?」と少し切ない、

そして欲に満ちた表情で復唱する。

「は、はい・・・しかし、あの、体を重ねる

というのはっ・・・ご容赦ください・・・」

「そげなことではない・・・

1度だけ、1度だけでいい・・・

口付けをしてもいいか?久忠・・・」

「へっ・・・、あ、あの、それは・・・」

『何(ない)でんよかと言(ゆ)たじゃらせんか

あや嘘か?』豊久は久忠を子犬のように

見つめた。その表情に久忠の心はひどく

揺らぎ、

「・・・・・・っ、わ、分かりました・・・それで

豊久様がいつものようにお元気になって

下さるのなら・・・」

とうとう屈してしまった。




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