第7章 愛しい影
俺(おい)にはそやそや可愛(む)ぜ従妹がいた。
名前を野風と言(ゆ)た。
最初(いっばんさっ)に会(お)た時は小(ち)んけ
体で剣を握って稽古(けこ)をしちょった。
良(よ)か眼をしちょったのを覚えちょる。
手合わせしてみっと凄(わっ)ぜか
上手(じょし)で共に戦場に出(で)られんのが
惜(あった)らしと思(おも)た程だ。
それ以来、野風とはいっとっ
会えなかったが、何年か経ったある日
たいかなこて家久殿の家に立ち寄(よ)っ機会が
出来たため、久(さ)しかぶいに野風に
会(お)こっが出来た。
久(さ)しかぶいに会(お)た野風は
随分(あばてもなか)と女らしくなっちょった。
髪を腰まで伸ばして、茜色の地に
梅の花が美(みご)つあしらわれた反物を
身に纏っちょった。
そがんして、俺(おい)の姿を見(み)ひくいなり
ぱたぱたと駆け寄ってきて
『お会いしとうぐゎした!豊久兄様!』
と花のように笑ってくれた。
そん笑顔(えご)が王手じゃった。
俺(おい)は野風をなんとかして
娶りたいと思(おも)た。
しかし、そん思いは直(いっ)き掻き消された。
野風の実姉が俺(おい)の妻として
やってきた。そん婚儀にお互いを慕う
気持(きもっ)など一切(せっ)ね政の為の
婚儀だ。俺(おい)は絶望した。
こいでは側室としても野風を娶る
ことも出来(でけ)ん。
しかし結局(つまいのはて)は俺(おい)も
お家の為だと、祝言を挙げてしもた。
祝言の席に居(お)った野風の
顔を見(み)っこっが出来(こ)んかった。
『豊久兄様・・・おめでとうごあす。』
そっと野風が寄って来て
祝(ゆ)えの言葉を述べた。
そん時の顔を忘れられない。
口元は笑っちょったが、まっで
泣(な)いちょっようじゃった。