第32章 抑えられない
──はちside───────────
意識がクリアになっていく
だけど頭はまだ、ぼんやりとしていて
とりあえずまた目を閉じると、目蓋の奥に何かの光景が広がった
────先輩?
階段を下りていく先輩の姿が、確かにそこにあった
それを見て、すぐに起き上がって
『先輩!』
と、声をかけるまでに数秒
こんなに速く行動できるなんてね
やるじゃん、わたし
【虹村】
「おまえ・・・大丈夫なのかよ?」
『はい、もう回復しました』
【虹村】
「つっても、おまえのこと寝かせただけなんだけどな」
『ご迷惑おかけしましたー!修造先輩ー!』
おちゃらけたはずなのに、先輩の顔は険しくなって・・・
わたし・・・なにかおかしいこと言ったかな?
もしかして、失礼なこと言ったんじゃ・・・
大丈夫かな?
『せ、先輩、』
【虹村】
「・・・・・・時々、お前が誰だか分からなくなる」
『え?』
貫かれる
心臓を抉りとられるかのように、苦しい
【虹村】
「・・・『今』のおまえは、誰なんだよ・・・?」
────・・・え?
『いま、の・・・?
・・・今のも何も、私は私ですけど!?』
【虹村】
「・・・それがなんだか信じられねぇんだ、俺。」
・・・なに、言ってるの?
・・・・・・私は、わたし。
何者でもない、ただ一人の、唯一無私の自分なのに
『・・・どういうことですか、それ・・・』
【虹村】
「・・・俺が訊きてぇよ、そんなの。
・・・お前は誰だよ・・・。
ほんとに、」
「三井はち、なのか?」─────
・・・やっぱり、『わたし』じゃ、ダメですかね・・・?