第30章 紫のお菓子
その日は雨だった
ザーザーじゃなくて、しとしと雨
人間はこういうのが嫌いって誰かが話してるの聞いたけど、僕も嫌い
なんだか湿気ってる感じがするから
それでも、あの子はやって来た
やっぱり、大きなカゴに大量の飲み物を詰め込んで
───でも、きょうは少し違った
隣に、大きな大きな紫がいた
その紫さんは、僕を見るなり目を輝かせた
なんか照れるよね、こういうの
僕を指差して、あの子に訴えかけてる感じだ
あの子は、呆れながらもこくりと頷いて、笑顔になった
そして、手は伸びる
紫さんが、僕を手に取った
───僕たちお菓子は、人の体温を感じると、身を委ねるカタチになる
だから、手に取られたその瞬間に、僕たちの意識はなくなっていくんだ
案の定、僕の意識は途絶えた
でも、なんだか幸せなんだ、この瞬間
僕がいるから、誰かが幸せになれるのかなって、思うんだ
本当にそうかは、分からないけど
───『・・・本当だよ』
聞こえるはずのない声
あの子の声だった
あれ?
幸せになりすぎて幻聴きいたのかな
脳裏に、あの子の笑顔が浮かぶ
紫さんの輝いた目も浮かぶ
こうやって、誰かが幸せになる瞬間を、僕は幾度となく見てきた
それが、僕たちの幸せ
だからこそ、嬉しいんだ
その瞬間を、あの子が見せてくれて
あの子の笑顔が、これからの僕の幸せになるのかな
もしもの話でもいいよね
そんな夢も、持っていたい
そう思わせてくれたのは、あの子。