第26章 父さん
《あらあら。怒ったり泣いたり、騒がしいわね。わたしってば》
はっとして、はちを見ると、その頬に涙が伝っていた。
「はち・・・」
《征十郎。私が泣いてる理由はきっと、その子が泣きたがっているからよ。
男の子なら、その手を離さないでね》
「・・・はい。母さん」
《今、私の体は彼女とシンクロしてるわ。
迂闊に蹴ったりしたら、私も痛い思いするの。やめてくださいね・・・征臣さん》
【赤司父】
「・・・、」
《・・・征十郎、こっちおいで》
はちを横たわらせ、母さんの隣へと向かう。
《あら。見ないうちにおっきくなったわね》
「そりゃあ成長くらいするから」
《ふふ。楽しみだわ》
そういうと、母さんは俺と父さんを同時に抱き締めた。
母さんの懐かしい香りが、仄かに香る。
《・・・征臣さん。あなたもうちょっと柔軟になった方がいいわ。心身ともにね》
【赤司父】
「・・・こんな場面で茶化すな」
《征十郎も、自分の道が決まったなら信じて進んでみなさいね。
・・・お母さん、ただ死んだ訳じゃないんだから。見てるわよ、ちゃんと》
「・・・───ありがとう・・・──」
《───あぁ、これだから子供って可愛いんだわ。
───・・・じゃあ、またいつかね》
ふわっと、そよ風が吹いた。
母さんはいなくなり、俺と父さんは向き合う形になる。
「・・・父さん」
【赤司父】
「───征十郎。お前が進みたい道に進んでみるんだ
俺を、その道の味方につけてみろ」
「──・・・はい」
父さんは軽く微笑んだ。
そんな顔、初めて見た。
はちを抱き起こしたあと、ソファに横たわらせた父さんは、仕事だからと家を出た。
こんなに清々しい見送りは、初めてだった。