第26章 父さん
【赤司父】
「・・・詩織───か」
《・・・お久しぶりですね
征臣さん》
【赤司父】
「・・・どうなっているんだ」
《彼女の体を借りて、少し戻ってきたんです》
【赤司父】
「・・・そうか」
父さんはこちらを横目で見たあと、また母さんと向かい合う。
俺はただただ父さんを睨んでいた。
──はずだ。
《・・・征十郎が、自分の進むべき道を見つけられましたね》
【赤司父】
「だが、あいつはまだ未熟だ。
・・・まだ何も知らないまま、一人立ちなんてさせられない」
《あなたはそうやって・・・いつも考えが固いから征十郎にも毛嫌いされるんですよ》
【赤司父】
「柔らかすぎてもダメだろう」
《・・・父さんである前に、ひとりの人間なんですよ
──そして征十郎も、ひとりの人間》
母さんは笑っていた。
はずなのに、どこか見たことない姿が見える。
【赤司父】
「・・・怒っているのか」
《ええ》
───ああ、そうか。
母さんが怒っているところなんて見たことも無かったから、分からなかったんだ
母さんが、怒っている。
それは少し恐ろしくも感じた。
【赤司父】
「・・・何故お前が怒る必要があるんだ?」
《・・・つくづく、愛想が尽きますよ征臣さん。
───ろくに征十郎と向き合ったこともないくせに》
───母さんは、泣いていた。