第26章 父さん
仮にも、父さんは赤司家の棟梁だ。
慰謝料請求とかセコいことはしないと願いたい。
そう思っていた俺の願いは、実現された。
「───・・・っ!?」
【赤司父】
「・・・はち、さんだったか・・・
君は、どこかあいつに似ている」
『あいつ』
父さんがそう呼ぶのは、母さんしかいない。
その、瞬く刹那───
母さんが、はちの体内から出てきた気がした。
「────かあ、さん・・・?」
出てきた、というのは現実なんだろう。
はちが床に崩れたのが分かった。
「はちっ!!!」
彼女を支えようと駆け寄る。
【赤司父】
「詩織────?」
だが。
父さんによって、はちの体は壁に衝突した。
そんなに強い力ではなかった。
だが、無力なはちは、軽く蹴飛ばされる。
絶望・・・?
落胆・・・?
そんなものじゃなかった。
父さんのことはそんなに尊敬していなかったが、むしろストレスの原因のようだが、少しばかりは父への感謝はあった
・・・はずなのに。
もうそんな感謝も何もない。
沸々と、何かが沸き上がる。
だが、今父さんに何かをしたところでどうなるわけではない。
だから、はちをきつくきつく抱き締めた。