第20章 夢
【桃井】
「──この子って・・・はちちゃん?」
虹村が横抱きして連れてきた人物に目を見張る桃井。
最早、眠っているようにしか見えない。
だが、この世界に、はちの存在はない。
瞬間、桃井の目から大粒の涙が溢れ落ちた。
【桃井】
「・・・っ、うっ・・・ひっ・・・くっ・・・
はちちゃん、なの?
なんで・・・起きないの・・・っ」
はちの肩を揺らしながら、涙を拭おうともせずに嗚咽する。
それを見ていた彼らは、胸が張り裂けそうな感覚に陥る。
【桃井】
「・・・だ、って・・・っ
駅前に・・・っ、遊びいこうって・・・っ約束したじゃん・・・っ
一緒に・・・、大ちゃんのっ、ボールだけ磨かないって・・・遊びっ、したじゃん・・・っ」
【青峰】
「・・・それは知んなかったわ」
【桃井】
「なのにっ・・・!
──なんで何も言わないでっ・・・
いなくなっちゃうの・・・っ!!」
《──ねぇっ! はちちゃん・・・!》
「!!?」
また、脳内にだけ響く声。
少し怖くすら感じる。
「最近、幻聴多いな・・・
きょうは、早く寝ようかな」
勉強を中断し、少し早いが就寝する。
寝っ転がったところで、今日の夢の記憶を辿る。
『あお、みね・・・?』
あのとき、呟いた名前は、なんだろう?
自分が時々、自分じゃないみたい。
あの、長い眠りから覚めたような感覚がしたあの日。
あの日から私は少しおかしいみたいだ。
そう不思議に思って、目を閉じた。