第2章 12月14日【あと10日】
「ふぁああ」
眠い。
でも起きないと。
あ、もうすぐで目覚まし時計が鳴る。
ピリ───ガチャッ。
「うーん……今日はちょっと止めるのが遅かったかな」
「いやいや。鳴り始めて1秒も経たずに止めるのはなかなかの神ワザかと。おはようございます、椎名様」
「ああ、おはよう。……って、いたんだ。夢じゃないんだ」
目を擦ってみるけど、やっぱり目の前にいる。相変わらず怪しい格好だ。
「え、信じてなかったんですか!」
「まあ、半信半疑」
目の前でブーブー文句を言う死神なんかより、この匂いの方が気になる。すごくいい匂い。空腹を誘う、温かないい匂いだ。
「ご飯……」
「え?あ、ああ、俺が作りました」
え、死神が?
こんないい匂いの朝ごはんを?
「何ですか。俺だってそれくらい出来ますよ」
え、心が読めるの?
ひょっとして、エスパー?
「なわけありません。俺はただの死神です」
「………読めてんじゃん」
「あなたの顔がわかりやすすぎるだけです」
そんな顔に出てたかなー。
頬を両手で揉みながら寝室を出てリビングに向かう。
「冷蔵庫にほとんど何も無かったので、簡単なものしか作れませんでしたが」
「すご……」
綺麗な黄色の卵焼き。
炊きたてほかほかな白米。
香ばしい匂いのする味噌汁。
カツオの乗ったほうれん草のおひたし。
「さあ、冷めないうちに食べてください」
しかも、皿が置かれたテーブルの上には塵一つないくらい綺麗にしてある。床も、キッチンも。全てが綺麗に片付けてある。私の家が汚かった訳ではなかったが、ここまで掃除は行き届いていなかった。
料理が出来る。
掃除が出来る。
「嫁に来る?」
「お断りします」