第4章 12月16日【あと8日】
「まあまあ拗ねないで。好きな人の色んな表情を見たいなって思うのは普通の事じゃん?」
だめだ。
こんなに好き好き言われると、私の感覚が麻痺してしまいそう。森下先生のことはあくまで、同期の同僚。恋愛対象ではない。そうやって自分に言い聞かせていないと、私も森下先生の事が好きだと勘違いしそうだ。
「そ、そう。部活があるから、もう行く」
待って、と森下先生に手首を掴まれる。こんな所を生徒や他の先生方に見られたら、私の教師人生は即終了だ。
「な、なに?」
誰にも見られたくない一心で、少し急かすように聞く。ところが呑気にも、何かを躊躇っている。森下先生の頬に少し朱が差し、そっと彼が瞼を伏せる。そして、ゆっくりと私に眼を合わせた。
「今日の夜、一緒に飯行かない?」
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【死神side】
ほとんど拷問に近い洗濯物が終わり、テレビをつける。特に見たい番組があるわけではないから、適当にチャンネルを次へと送っていく。
すると、突然に家中に大きな機械音が鳴り出した。一瞬、何かと驚いたが、その音の正体が固定電話だと気づくのにそうは時間がかからなかった。
出ようかと思ったが、今の俺の状況を考えるに出ない方がいいと判断した。俺が電話に出た所で相手に俺の声など聞こえやしないのだから。
しばらく電話の前でじっとしていると、留守電に切り替わった。
『……も、もしもし……椎名です。えっと……今晩は同僚と外食するので、夕飯はいりません。そ、それだけ、です。じゃあ』
そこで電話は途切れた。
電話の相手は彼女だった。
「夕飯、要らないんだ……」
彼女にだってお付き合いがある。
それを俺が邪魔する訳にはいかない。
誰かな。
あの例の同僚と?
「あーあ……嫌だな」
まだ仲直りしてないのに。
なにより、
たったこれだけのことでヤキモチやいてる俺が情なくて嫌になる。