第31章 特別扱い(縁下エンディング)
私は、あの日、普通に戻る事を選択した。
芸能界で生き残る自信が無かったからだ。
だけど、再就職もままならず、このままでは普通の世界ですら生き残れない。
面接は、私を見てみたい興味があるからなのか、受けさせてくれる。
だけど、男にフラれた事を理由に退職した、ある意味で黒歴史的な部分が有名で。
また、そういう理由で辞められたら困るから、雇っては貰えない。
シンデレラにさえならなければ、前の会社だって辞めていないと思うけど。
残っているのは、その事実のみだから仕方がない。
本日も、面接を受けた会社があったけど。
質問されたのは、芸能界にいた頃の話ばかりだったから、落ちるのは分かりきっていた。
本当に、シンデレラにさえ、ならなければ。
あの頃に出会った人達や、経験した事は宝物だと、自分の口で言った筈なのに。
早くも後悔しかけていた時、スマホが音を立てた。
画面を見ると、相手は‘縁下’と表示されていて。
「…は、はいっ!大熊です。」
信じられず、電話に出た途端の声は上擦っている。
「縁下です。今、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
電話口から聞こえる声は、前と変わらず穏やかで安心して話し始める事が出来た。