第25章 母の心
潤「あの時、智兄さんが訪ねて来てくれたお陰で、今の俺があるんだ。それは、母さんが導いてくれたお陰だと俺は思ってる。だからこのアルバムは、智兄さんに持っててもらいたいんだ。母さんも喜んでくれると思うから」
智「・・・」
潤からの申し出は本当に嬉しかった…でも、何故か心から喜べないでいた
翔「智くん…そのアルバムの最後のページ見て」
智「最後?」
言われるまま最後のページをめくると、そこにあったのは赤ん坊を抱く母ちゃんの写真だった
智「これ…」
翔「智くん…だよね?」
俺と…母ちゃんの写真…?
翔「昔、学校から帰ったらいつも出迎えてくれる母さんがこない事があって、部屋を覗いたらこのアルバムを見て泣いていたんだ…『智…ごめんね…』って…」
智「え?」
俺はその時、病院で見た夢を思い出した…
あの声は、母ちゃんだったんだ…
翔「後にも先にも母さんが泣いてるのを見たのは、あの時だけだった…当時は『智』が誰だかわからなかったから、何故泣いていたのか不思議だったけど、母さんは産まれたばかりの智くんを置いてきた事、本当に後悔していたと思う…」
俺は翔くんの言葉を聞いて、何故喜べなかったのか解った…
心の中で俺は、母ちゃんの事は割りきっていると思っていたけど、本当はどこかで俺を置いて出ていった事を恨んでいたんだ…
でも、母ちゃんは俺の事忘れた訳じゃなかった…
母ちゃんも俺に…会いたかったんだ…
潤「…智兄さん…貰ってくれる?」
智「…ありがとう…」
俺は改めて潤から渡されたアルバムを受けとり、大事に握りしめた
雅「ぐすっ、良かったな…智兄…って和、どうしたの?」
和「え?あ、いえちょっと…」
翔「…これで恩返しが出来たな…」
和「…え?」
翔「あ、何でもないよ」
和「・・・」
この時俺は、自分の事でいっぱいで翔くんの言った意味は解っていなかった…