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【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)

第2章 君のボールに恋してる


 今から三年程前。中学三年の春に、白鳥沢グループに属する中学校全六校で行われた合同合宿。
 全国に散る各校の主戦力を白鳥沢学園に集め、年に何度か行われていたその合宿最終日の練習メニューの一つに、一風変わった紅白戦があった。

 各校の主将チーム 対 主将の抜けたそれぞれのチーム。

 それはこの強豪六校が代々主将のポジションを固定していたからこそ為し得る夢のマッチだ。伝統的に行われていたその紅白戦の発案者は一体誰なのか部員たちが知る由もなかったが、個の強さをコンセプトとする白鳥沢サイドが噛んでいることに疑いはない。

 参加校同士の親睦を深めるため、というよりは互いに未知の選手とそのプレーに触れ、刺激しあって経験を積むためであろう。そしてこの試合で白鳥沢は高等部に引き抜くための逸材をチェックしているのではないか、とまことしやかな噂が密かに流れたのは、毎度、白鳥沢学園高等部男子バレーボール部の名将、鷲匠監督がコーチや部員を数名連れて、この試合の様子を見に現れていたからだ。

 かくして、白鳥沢中等部男子バレーボール部主将の牛島はウイングスパイカーとして、そして蒼鷺中学男子バレーボール部主将の朔弥はセッターとして、二人はコートに並び立った。
 シンプルなパワーを重視する白鳥沢と異なり、蒼鷺はとにかく美しさ(すなわち正確さ)と協調性を重視した。代々、主将のポジションをセッターとするのはそれが理由だ。そして朔弥はそんな蒼鷺中学でも歴代稀に見る逸材である。
 うちの紀伊もなかなかのもんやで、と蒼鷺の智将瀬戸口監督は他校の主将たちに囲まれながらも全く動じない朔弥を眺めて、ニンマリと笑みを浮かべた。

 数々の球技がそうであるように、バレーも攻守の違いに関わらず「繋ぐ」競技である。決して個人競技ではない。例え個の力が並外れた主将の集まりだとしても、まとまりがなければ単なる船頭ばかりの舟なのだ、泥舟も等しい。
 しかも各々がチームを引っ張る力を持った者たちなのだから、我の強さもアクの強さもピカイチだ。
 年に数回しかない合同合宿。毎回その最終日の締めくくりとして行われる紅白戦も、比例して数回しか行われない――同じメンバーでは。翌年には新しい主将たちが、また手探りで急拵えのチームに戸惑い、苛立ちながらも必死で学び経験値を積み重ねていく。
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