【HQ】片翼白鷺物語(カタヨクシラサギモノガタリ)
第3章 星に願いを【Xmas番外編】
「おはぎ、のことだ。祖母がそう呼んでいた」
「ああ、方言か……びっくりした、そこまで怒らせたかと」
一瞬で寿命が縮んだあ、と脚を崩して壁にもたれる朔弥に、すまない、と謝罪の言葉を述べた牛島は、ふと浮かんだ疑問を投げかけた。
「おはぎが好物の一つだと言ったことがあったか?」
「いや、本当はイチゴのショートケーキの方が雰囲気出るかなと思ったんだけど、売り切れで……ってサンタが言ってました!」
「……そうか」
クスリと緩められた表情に、ああこれはバレてるかもなあ、と朔弥は力なく笑って肩の力を抜く。
こんな時間に食べると消化不良を起こしてしまいかねないが、年に一度くらいは構わないだろう。そう言って牛島が三つ入っていたそのうちの一つを手に取り、ぱくりとかぶりついた。
「うまいな。おまえも食べろ」
「じゃあ、ご相伴に預かって」
丑三つ時、しかもクリスマス・イブというこの特別な夜に、ベッドに二人並んで黙々とおはぎを食べる男二人という構図はかなり異様なものであった。
サプライズには失敗したけど、若利嬉しそうだしまあいいか、と朔弥は甘い和菓子を口いっぱいに頬張った。
◇ ◇ ◇
チチチ、と鳥のさえずりが朝陽を運んで、牛島は目を覚ます。見慣れた天井、見慣れたシーツ、そしてすうすうと寝息を立てる見慣れない寝顔がすぐ隣にあって、あれは夢ではなかったのか、と静かに頷いた。
サンタに頼んでみたらどうだ、と大平に言われて渡された金色の星。頼む時は枕の下に欲しいものを書いた手紙を忍ばせておくものではないのか、と疑問を抱いたが、試しに一つ願いを込めてツリーの上に星を乗せた。
――紀伊とゆっくり話がしたい。
近頃、どこかよそよそしく接する朔弥と、きちんと向き合いたい、そう願った。
彼はサンタが来ないと漏らしたことを案じて、プレゼントを届けに来てくれたのだろう。牛島は朔弥の白磁器のように滑らかな頬をぼんやりと眺めて、思案する。
空が白み始めるまで、色々なことを話したように思う。バレーに関することが主だったが、トレーニング方法についてのこと、教師や級友たちのこと、将来の夢。
中学の頃の懐かしい記憶を語り合ったあたりで船を漕ぎ始めた朔弥を、なんとなく部屋へ返すのが惜しくてそのまま布団に押し込んだ。