第9章 Contenda com minha mãe
「もしもし。潤?」
潤『………兄さん?』
電話口から聞こえてきた気だるい声。
「ごめん…寝てた?」
潤『いや…大丈夫だよ。どうしたの?』
ここに居ないとは分かっていても…潤の声を聞くだけであいつが傍に居てくれてる、そんな気がした。
「今日はありがとう。ちゃんと御礼言えなかったから」
潤『御礼なんていいよ。それより…勝手にあんな事言ってごめん。大丈夫だった?』
「まぁ、親戚の視線は痛かったけど平気。母さんもあれから何も言わないから。とりあえず今のとこは」
潤『なら良かった』
「うん…」
潤『………』
「潤。明日は…来ないの?」
潤『止めとくよ』
「………俺が…来て欲しいって言っても?」
潤『………』
スマホを持つ手に力が入る。
潤『兄さん。俺は…』
「勝手な事言ってるのは。それでも…俺はお前に逢いたい。逢って…話がしたい。じゃないと俺…『潤何してるの?お風呂沸いたよ?』」
………え?
潤『ありがとう。直ぐ行くよ』
遠くに向かって声を掛ける潤の声。
『待ってるね』
ドアが閉まる音がする。
「潤…今の…」
潤『出て行く時に言っただろ。一緒に暮らしたい人が居るって』
「分かってる。でも…今の声…潤…」
潤『………明日は遠慮するよ。もうそっちの家族に迷惑掛けたくない。今度時間見つけて帰る。ちゃんと話すから。じゃ…おやすみ』
そのまま途切れる通話。
「嘘だろ…」
スマホが手をすり抜け、音を立てて椅子に落ちる。
電話の声。
信じたくない。
まさか…俺のよく知ってる声だなんて。
間違いであって欲しい。
頼む…雅紀…。