第2章 編入生
の目が、スゥッと細められる。
極限まで集中する態勢に入ったのだ。
それを見ていた周りの生徒たちが、さすがだの素晴らしいだの言っているが、本人の耳には届いていない。
(今回のレシピは完全に頭の中に入っている。あとは目の前の料理に集中するだけだ……!)
(『丁寧に、慈しむように。
食材の良さを最大限活かすことに全神経を使うんだ。』
昔司先輩に言われた言葉)
十傑第一席の司もフレンチが得意分野なので、よくお互いに試食し合うのだ。
(初めて司先輩の料理を食べた時の感動は今でも覚えてる。調和、という言葉はあの料理のためにあるのだろう、とさえ思った)
今回の料理はいつもより丁寧に作ろう、と思った時にはよく彼の料理を思い出す。
は自分の料理に集中しながらも、司の皿に少しでも近づけるように、と創意工夫をする。
(よし、あとはソースに馴染ませるために煮込むだけ。時間ギリギリまでやり続けると、あと30分と少し煮込めるか。ちょうどいい感じ)
もう失敗する要素はほとんどない。
さっきまでの凄まじい集中力も少し和らげる。
そんな時だった。
「どうしよう、どうしよう……」
泣きそうになっている生徒の声が聞こえてきた。
(誰だろう……って恵……?)
どうやら大変なことになっているのはと仲のいい田所恵のようだ。
ペアの幸平創真も少し険しい顔をしている。
(何があったんだろ……)
まだ自分の料理が完成していないため様子を見に行くことが出来ないは、その場で恵の心配をしていた。
(まあでも)
彼女は入学式の時の幸平の様子を思い出して、クスリと笑う。
(あれだけ大きいこと言ったんだから、授業でのトラブルくらい対応できるよね?)