第2章 編入生
「今日はこのペアで調理してもらう」
教師にそう言われたものの。
はなぜかペアがいなかった。
「先生、私のペアは誰なんですか?」
そうたずねると、その教師は、
「君は一人でも大丈夫だろう、とローラン・シャペル先生がおっしゃったから、今日はペアの人はいないよ」
(シャペル先生め……なんで私だけなの、まったく)
本人はそれを聞いてむっつりしていたが、周りの反応は違う。
「さすが九条さんだ……」
「あのシャペル先生に認められているとは……ていうか、今からの授業の先生、あの『笑わない料理人』かよ」
「えりな様をも上回ると言われている腕前なだけあるな……」
周りのひそひそ声はには聞こえていない。
彼女の興味は今別のものにある。
「それに比べてなんだよあの大口叩いてた編入生は……」
「ふん、どうせ口だけだろ」
「九条さんとは正反対だ」
なんてことを言われているのは編入生こと幸平創真。
そしての関心の的。
創真は周りの刺さるような視線に気づいていないのか、ペアの田所恵に気軽に話しかけている。
もっとも、恵はガチガチに緊張しているが。
(能天気で面白そうな人だな、やっぱり)
創真の様子を見ているはどこか楽しそうな表情だ。
(これはあの人にも報告しないと)
彼女が言うあの人、というのは、遠月の卒業生で今はパリでフランス料理店を出している四ノ宮小次郎のことだ。
が中等部1年の頃とあるコンクールで知り合って以来、二人は腐れ縁のような仲なのだ。
中等部2年の時に彼女がフランスに留学した際も、四ノ宮の店で預かっていた。
(久しぶりに四ノ宮さんに電話しよっと。まあでもまずは、あの編入生の料理の腕前を見てからだな)
そう結論づけて、は自分の調理器具の準備を始めた。