第2章 編入生
シャペルがフォークを肉に軽く押し当てる。
「……柔らかい。フォークが弾むようだ」
「な……!?」
シャペルの言葉に明らかに反応した二人組がいた。
(へぇ。あの二人、もしかして恵がお皿を取りに行くためにあそこを離れたスキに、何かやったみたい。あの反応はそうとしか思えないね。大方塩でもかけたんだろうな)
は心の中で推測する。
(それでもあの短時間で肉を柔らかくしたのか。あの編入生、何をやったんだろ)
その時、は幸平が手に持っていた蜂蜜に気がついた。
(なるほど。蜂蜜にはタンパク質分解酵素プロテアーゼが含まれているから、それがかたい牛バラ肉に作用したってわけか。やるじゃん、編入生)
の予想通りだった。
幸平はこの料理のカラクリを嬉しそうにシャペルに語っている。
その説明を聞いたシャペルと恵は、柔らかくなった牛肉をフォークで切り分け口に入れる。
結果は。
「素晴らしい!」
シャペルが、厳しいことで有名で『笑わない料理人』とまで言われているシャペルが。
笑った。
周りの生徒たちもその事実に呆然としている。
(あの編入生、やっぱりとんでもないんだな。ふふふ、これで競争相手が増えた)
は一人密かに笑う。
(でもね、編入生くん。これぽっちじゃてっぺんなんて獲れないよ?)
自惚れるわけではない。
だが彼女は自分が遠月の頂点だということを理解している。
(君はまだまだ私には勝てない、幸平くん。それでもいつかは……)
楽しみが増えて何よりだ。
はそんな顔をして、再び小さく笑みを漏らした。