• テキストサイズ

フレンチの料理人のお気に入り【四宮】

第2章 編入生


シャペルがフォークを肉に軽く押し当てる。




「……柔らかい。フォークが弾むようだ」


「な……!?」



シャペルの言葉に明らかに反応した二人組がいた。



(へぇ。あの二人、もしかして恵がお皿を取りに行くためにあそこを離れたスキに、何かやったみたい。あの反応はそうとしか思えないね。大方塩でもかけたんだろうな)


は心の中で推測する。


(それでもあの短時間で肉を柔らかくしたのか。あの編入生、何をやったんだろ)


その時、は幸平が手に持っていた蜂蜜に気がついた。


(なるほど。蜂蜜にはタンパク質分解酵素プロテアーゼが含まれているから、それがかたい牛バラ肉に作用したってわけか。やるじゃん、編入生)



の予想通りだった。

幸平はこの料理のカラクリを嬉しそうにシャペルに語っている。

その説明を聞いたシャペルと恵は、柔らかくなった牛肉をフォークで切り分け口に入れる。


結果は。





「素晴らしい!」



シャペルが、厳しいことで有名で『笑わない料理人』とまで言われているシャペルが。



笑った。




周りの生徒たちもその事実に呆然としている。




(あの編入生、やっぱりとんでもないんだな。ふふふ、これで競争相手が増えた)


は一人密かに笑う。




(でもね、編入生くん。これぽっちじゃてっぺんなんて獲れないよ?)




自惚れるわけではない。

だが彼女は自分が遠月の頂点だということを理解している。



(君はまだまだ私には勝てない、幸平くん。それでもいつかは……)





楽しみが増えて何よりだ。

はそんな顔をして、再び小さく笑みを漏らした。
/ 28ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp