第44章 〜44〜番外編③
「……良かったです……東雲さんで」
「ふふ、驚いた顔も可愛いのね」
「いえ……(落ち着こう……挨拶してすぐ帰る。よし。)」
「掛けて頂戴な」
「あ、はい。」
東雲さんに促されるまま、座布団に腰掛けた。
「…………」
「ふふ、来てくれてありがとう。嬉しいわ」
「いえ……。ちゃんとお別れ言いたくて……あと反物のお礼も……」
「……お礼なんていいのよ。」
「そんな訳には……。それで、あのこれを東雲さんに」
私は手拭いを差し出した。
東雲さんは綺麗な仕草でそれを受け取り、広げて眺めた。
「これは……?」
「頂いた反物で手拭いを作ってみました。お礼にしてはつまらない物で申し訳ないんですが……」
「……ふふ、こんな嬉しい贈り物初めてだわ……」
「そんな大袈裟です……」
東雲さんは手拭いを畳むと、愛しそうに優しく撫でた。
「ちゃん、ありがとう」
「いえ、良かったら使ってください」
「ふふ、大事にするわ」
東雲さんは手拭いを懐へ閉まって、その上をぽんっと軽く叩いた。
「……?」
「ちゃん」
「はい……?」
「どうして私が……今朝貴方を部屋に呼んだと思う……?」
「……えっと……今日、お帰りになるから……」
「そうね、それも間違ってはないわ」
東雲さんはそう言うと、立ち上がって私の目の前に座り直した。
咄嗟に離れようとすると、腕を掴まれた。
「……東雲さん?」
「ねぇ……私の最後のお願いを聞いてくれる?」
「……お願い?」
「えぇ、私の一生に一度の最後のお願い」
「……私に……出来ることなら……(……なんか……やばい気がする……うまく言って逃げた方がいいかな……)」
私が入ってきた襖をちらっと目線だけで見ると、ぐいっと顎を持ち上げられて、東雲さんと目が合った。