第6章 ご紹介します
幸せだと、お腹が一杯になるという例えがある。
だから、人の幸せ話を聞いたら、ご馳走さま。
そんな説明を聞いている内に1人だけ食事を終えていた黒尾さんが席を立った。
「りら、ごっそーさん。じゃ、俺はそろそろ帰るわ。」
「お粗末様でした。」
今のは、食事に対する言葉なのだと分かっている。
返す言葉を口にして、見送りをしようと自分も立ち上がった。
木葉さんは見送りをしないようだったから、リビングに置いて2人で玄関まで歩く。
「…なぁ、何年?」
靴を履いてから、振り返った黒尾さんの唐突な質問。
意味が分からなくて、答えられない。
「…何年待った?アイツと、付き合うまで。」
「待ってません。約束があった訳でも無ければ、再会するとは思っていなかったので。」
説明をされたから答えたけど、欲しい答えじゃなかったようで、渋い顔をされた。
「じゃ、何年片想いした?」
「10年です。」
質問の内容が変わる。
高校1年、16歳の時に出会って、あの人を好きになった。
今26歳で、計算はしやすいから、即答出来た。
「10年、か。もし、約束があったら、もっと待てたか?」
「はい。それこそ、一生でも。」
「…そっか。」
話の終わりを示すように、背を向けた黒尾さん。
瞬間的に見えた顔は、とても安心したように笑っていて。
笑顔の意味は分からないけど、黒尾さんにとって良い答えだったんだろう。
また、と言い残して帰る姿を頭を下げて見送った。