第16章 複雑に絡む
話が終わったらしい、その時に私のスマホが音を立てる。
何を言って返せば良いか、分からなくなっていたから助かった。
取り出したスマホに表示された名前は木兎さんだ。
空気は読めないのに、今回のタイミングは、本当に有難い。
断りを入れるように会釈して、電話に出た。
『りらちゃん、今日は店来ねーの?』
「用事があるので行けませんと、かおるさんにお話ししてあります。」
『今、近くか?』
「いえ、あまり近くは無いです。」
『そっか。じゃー、迎え行くわ。』
「あの、意味が分かりません。説明して下さい。」
通話になった途端に話を始めるのは、なんとも木兎さんらしい。
勝手に話を進めていくのも、木兎さんならではなのだけど、内容が掴めなくて困惑する。
『店、予約入れたから、かおるちゃん1人だと可哀想だろ?手、回んねーだろーし。』
「…行きます。用事、済ませてから。」
やっと理解は出来たし、かおるさんが大変なのは分かるから、手伝いには行きたい。
了解の返事をしたは良いものの、片付けもせずに帰るのは申し訳無くて、猶予は貰った。
通話を終わらせ、片付けようと重ねていた食器を手に取る。
「誰かから呼び出しでしょ。片付けはやるから、行きなよ。」
「相手、木兎さんですから。店に来てくれ、と。」
「光ちゃん、相変わらず強引なトコあんのね。久々に会いたいなー。」
「店に来たら、会えますよ。」
「あ、じゃあ私は片付けしたら一杯飲みに行くわ。だから、りらは先に行って席の予約お願いね。」
持っていた食器は、すぐに奪われ、片付けはサラっと断られて。
私が早く帰りやすいようにしてくれるのは、この人の気遣いだ。
忙しくなるだろう店の事が気になるし、甘えさせて貰う事にした。