第9章 名前を呼んで
早く泣き止まないと、2人に悪い。
分かっていても、どうやっても駄目だった。
この前、険悪な感じになった時も別れは覚悟していたのに、ここまでの状態にはならなかった。
一度、希望を見てしまうと余計に苦しくなるのだと知った。
「…オイ、コラ。何泣かしてんだよ。人の彼女。」
顔を手で隠していると聞こえた声。
ちょっと怒りを含んだような、低い木葉さんの声。
隣の椅子が動く音と振動を感じる。
「お前、どうしたの?木兎達にイジメられたかー?」
私に向けられた声は優しいものになっていたけど、やっぱり固有名詞では呼んでくれない。
辛くて、苦しくて、この場に居たくない。
「すみません。帰らせて下さい。」
「そうだな。帰ろうな。俺ん家で、いっぱいギューってしてや…。」
「自宅に帰ります。」
立ち上がって頭を下げる。
木葉さんも、すぐに隣に立ったけど今は一緒に居るのが苦しいから、言葉を遮った。
「え、ちょっ…。」
引き止めるように掴まれた手も払って、拒否をするように首を振る。
「明日、行きますから。お休みなさい。」
また引き止められてしまわない内に背中を向けて、早足で居酒屋から出た。