第42章 あなたの為なら☆政宗
『眠い…。少し休むかな。』
陣の隅に腰を下ろす。何せもう真夜中過ぎだ。
すると隣に一人の家臣が寄ってきた。
ん?こんな人いたっけ。
とはいえ家臣の数は多い。全ての顔を覚えているはずもない。
『あきら之丞さま、宜しかったら お飲み下さい。甘酒です。暖まりますよ。』
家臣が にっこりと微笑んで湯飲みを渡す。
優しそうな人だな。私にまで気を使ってくれるなんて。
『ありがとうございます。有難く頂きます。』
礼を言って湯飲みを受け取った。
『では私は見張りがありますので、これで…。』
そう言い残し背中を向けた家臣が、口の端でニヤリと笑った。
それとすれ違うように、話し合いを終えた武将達が歩いて来る。
『貴様、何処から入りやがった!?』
政宗が叫ぶ声がする。
なんだろう?と思いつつ、手元の湯飲みを傾け、ひとくち口に含んだ。
『あきら之丞!飲むんじゃねぇ!!』
ゲホッ!
な、何これ!?苦い…。
走り寄って来た政宗があきらの口に指を突っ込む。
『吐け!今 飲んだもん全部吐きだすんだ!』
ゲボッ!!
『うえっ…。』
四つん這いになり、泣きながらあきらが吐く。
『よし、取り敢えず全部吐いたな?』
政宗に背中をさすりながら聞かれて、コクコクと頷く。
飲んだのは ほんの一口なのに身体中が痺れて力が入らない。
『正宗さん、これを!一応めぼしい毒には聞く解毒剤だから。』
家康が椀に入れた液体を手渡す。
正宗は受け取ると口に含んだ。
あきらの顎を掬うと、口移しでそれを飲ませる。
ゴクリ、と喉が鳴るのを確認すると、はーっと安堵のため息をついた。
ゆっくりとあきらを起き上がらせる。
『知らない奴から貰ったもん、ほいほい飲むんじゃねぇ!』
目を吊り上げて正宗が怒る。
『ご、ごめん…。』
毒のせいと怒られたバツの悪さで青くなる。
『政宗さん、その位で。』
家康が助け舟をだす。
『あんたは向こうで休んでな。』
陣内には仮眠が取れるように板敷の間が作ってあるのだ。
そちらを向くと、先程の家臣が捕らえられているのが見えた。
『あの人は…?』
あきらが尋ねる。
『ああ、あいつは顕如の手下だ。秀吉が 何人か取り逃がした、って言ってた奴の人相書きを書いててな。見てなかったら危ないとこだった。』