第38章 約束☆謙信
ざぁっと風が吹き、ほどけたあきらの長い髪を揺らす。
『…姿だけは鬼神のように美しいな。』
『鬼神って…鬼じゃないですか!それじゃ謙信さまは羅刹ですね。』
確か羅刹って、力が強くて足が速くて…人を食べるとかいう鬼だったよね?
『はっ、羅刹か。上手いことを言う。』
ぶん、と軽く刀を振ると鞘に戻し、謙信が懐から何かを取り出した。
それをあきらに投げて寄越す。
『え?』
あきらが胸元で受け止める。
『わ、綺麗な色…。』
手の中には薄藍色の元結(もとゆい:髪を結ぶ為の紐)があった。
『お前に くれてやる。』
それだけ言うとあきらに背を向け、謙信は去っていった。
『あっ!』
声を掛けようとしたが風のように消えて行く。
『ふふっ。本当に羅刹みたいな人。』
あきらはその元結で しっかりと髪を結びなおすと城への道を帰って行った。
『多分…こっち…だよね。』
と呟きながら。