第3章 出会い☆顕如
なにがどうなっているのか…。
私は京都の街を散策して本能寺跡にいたはずなのに、目が覚めたら本物の本能寺に来ていた。
それも…戦国時代の?
『あはは、ありえない…。』
あきらは顔を引きつらせて笑いながら、(そういえば あの時同じ場所にいた眼鏡の彼はどうなったんだろう?)と考える。
でも今は、とにかく安全な場所を探す事が先決だ。
スマホの電源は切れている。
もしかして…と淡い期待を胸に見た腕時計も止まったまま。
今、何時なのかも解らない。
気が付けば、あきらは鬱蒼と木が生い茂る森の中に迷い込んでいた。
木々の隙間から差し込む、弱々しい月明かりだけが頼りだ。
木の幹を掴みながら歩を進める。
パキッ!
小枝を踏む足音だけが暗闇に響く。
『もし、そこの御仁。』
後ろから 闇に溶けるような低い声が聞こえて、あきらは飛び上がりそうになるのを必死に耐えた。
ゆっくりと振り返ると、1人の男が立っていた。
月明かりで薄く照らされた顔には、額から左の頬にかけて大きな傷がある。
『私は たまたま通りかかった旅の僧、顕如と申します。なにかお困りなら手を貸すが?』
お坊…さん?
男が動くと手に持っている杖のような物がシャン…シャン…と音を立てる。
あれ、この音、どこかで…。
『!!』
そうだ、さっき信長を狙っている男からも聞こえた。まさか…。
『いえ、お坊さまの手を煩わせるような事はございません。知り合いの所へ寄った帰り、下手に近道をしようとしたのが運の尽き、迷ってしまいまして。来た道を戻っている所でございます。』
あきらは出来るだけ冷静に言う。
『それならば早く立ち去るといい。夜の森は鬼が出ると言いますからな。』
口の端を上げて顕如が不気味に微笑んだ。
『ご忠告ありがとうございます。失礼致します。』
そう言って、あきらは顕如の横を通り過ぎる。
『ところで御仁、袴をお履きのところを見るとお武家さまのようだが、刀も持たずに一人歩きを?』
顕如が ジロリとあきらの腰元を見やる。
歴史にあまり詳しくないあきらも、この時代では、武士は刀を片時も離さない、と何かで聞いたことがある。