第9章 【顕如・ほっこり編】
顕「この子は私が預かろう。やれることは少ないが。見守る事は出来る。」
「でも・・・。それじゃ顕如さんのご負担に・・・。」
顕「なに、負担などとは思っておらぬ。こういうのは何かしら縁があってな。」
そういえば以前顕如に捕らえられた時にカラスに襲われた猫をたすけたことがあったっけとふと思い出した。
「そういえばあの子猫も元気にしているでしょうか・・・。」
何のことを言っているのか察した顕如。
顕「さぁ・・・行方は分からぬが、きっと元気にしているであろう。」
目を細めて遠くを見やる顕如の優しい表情に少しドキリと胸を鳴らせたのだった。
「私、家康にクスリを作ってもらいまた届けますね。なのでこの子お願いします。」
ペコリと頭を深々と下げた。
顕「お嬢さんは本当に健気なのだな。そなたの猫ではないというのに。どんなものにでも心を砕き、心を痛め、慈悲の心を持ち合わせる。そなたの方が仏の道にふさわしいのかもしれんな。」
(そしてそなたは私の心にも熱い気持ちを持たせてくれる。このまますがってもいいのかとさえ錯覚してしまうそんな力を持っている・・・。)
顕「このまま、私だけの・・・・。」
思わずちいさく呟きかけた顕如はハッとして口を噤んだ。
「え?」
小さくて聞こえなかった顕如のつぶやきは麗亞に聞こえることはなかった。
顕「いや、何でもない・・・。さぁ、もう遅くなる・・・。城に帰るがいい。近くまで送ってやろう。」
そういうと、顕如は麗亞と共にまた城下まで戻る事になった。
そして城が近くなったところまで来た時。
「ここで大丈夫です!! 有難うございました。それではまた明日お薬持って行きます!」
深々とお辞儀をして城へと帰って行った。
顕如はその麗亞の後ろ姿を見送りながら、眩しそうに目を細めた。
顕「また、会える約束をして、こんなにも心が躍るなどとは、私も、まだまだ鬼になり切れん証拠だな・・・。」
自嘲気味に笑うと、袈裟を翻らせ、また廃寺へと戻っていった。