第7章 【徳川家康・準備編 下】
次の日、穏やかに晴れた朝、窓の隙間より差し込む光に麗亞はふと目を覚ます。隣にいたはずの家康は既に起きていてどこかに行っているようだ。
「家康・・?!」
眠い目を擦りながら起き上がり周りを見渡しても誰もおらず。少し不安を覚えた。とりあえず起きて、身支度を整える。
家「起きたんだ。ようやく。」
入口の戸を開け入ってきた家康は片手に鉄鍋をもってやって来た。
家「庭の竈で朝食を作ってもらったのを貰って来た。」
そういうと、囲炉裏の側にある天井から下がっている鉄のフックに鍋を掛けた。
家「着替えたのなら、早くこっち来て朝餉にしよう。寒いから火に当たりなよ。」
「う・・・うん・・・。」
昨日の大失態の事を思い出すとどんな顔をして話せばいいのかと考えていたけど、家康が思いの外普通だったので、少し拍子抜けをする。
「あ・・・あのっ、昨日はごめんね・・なんか迷惑かけちゃったみたいで。」
チラリと家康の方をみるが、家康は黙々と無表情でお椀に温かい汁をよそいながら、普通に接してくる。
家「ほんとびっくりしたんだからね。もう今度はあんな無理せずにちゃんと言いなよ。」
(家康は、意識してない・・・みたい。)
余りに普通に流されたので、緊張してたのが馬鹿みたいに思え、でもなんだか物足りなさもちょっとだけ感じた麗亞だった。
家康が心の中ではめちゃくちゃ動揺して焦っていることも知らずに・・・。
*****
朝餉を終えた二人は、早速浦山に入る事になった。連れて来た少数の兵たちも今日ばかりは山仕事をすることになる。
家康と麗亞が山に分け入ると、少し歩いたところで倒れている松の木を発見する。
家「これか・・・。かなりの数だな・・・。」
見渡す限りの倒木の数に唖然とする。
「凄いよね。これ片付けられるのかな?どれくらいで・・・。でもどうやって片付けるの?」
家「一本一本運び出して切り出すしかないね。力仕事になるから麗亞の出番はなさそうだね。とりあえずあんたは村で何か他の雑用をするならしなよ。」
確かに自分がここでできる事は無いと思ったその時、ふと斜めになった松の木の根元で蹲っている動く何かを発見した。
「あ、あれ・・・。」
思わず駆けだして、その根元にしゃがむと、怪我をしている小鹿が震えていた。