第5章 【徳川家康・準備編 上】
家「麗亞・・・・・ごめん・・」
ポツリとつぶやかれた言葉に目を見張る。
(・・・・。)
いつもは聞けない家康のつぶやきに、何だか動くに動けなくなった。もしかすると、家康は自分に責任を感じて・・・。そう思うと、その抱きしめられた腕を振りほどく気力が失せて行く。
その上、温かい体温が麗亞の旅の疲れや、まだのぼせてだるさが残る体に染みわたり、段々と意識が遠くに運ばれていくのだった。
「・・・おやすみ・・家康・・・」
聞こえるか聞こえないかの声で家康の寝顔に声を掛け。自分もまた眠りの縁へと落ちて行くのだった。
麗亞が夢の中へ行ったそのすぐ後に、家康がふと目を開ける。すると自分の着物をギュッと握りしめ胸元に顔をうずめすやすやと眠る麗亞の顔があった。
知らぬ間に自分も彼女の躰を抱きしめるような形になっていることに気づき、ちょっと慌てる。
家(なにやってんの俺っ・・・こんなのどさくさ紛れじゃないか・・)
でもその腕を離すこともできず、その腕の中の華奢な体を確かめるようにそっと力をこめる。
家(ほんと、細っこい身体。頼りなくて、でも・・・温かい。なんでこんな気持ちになるんだろう。か弱くて、すぐ死んじゃいそうなのに、目が離せなくて、それでいて何か不思議な強さや眩しさがあって・・・。)
麗亞の事を考えていると、心の中がザワザワとしてくる。今までこんな感情なんか知らなかった家康だった。でも、嫌な感じはしなかった。
家(こんなとこ、政宗さんになんか絶対見せられないじゃない・・・。)
「・・・家・・やすぅ・・・。 ぁり・・がと・・」
寝言を言いながら、ふにゃふにゃした笑顔でにやける麗亞の顔を見ると思わず、堪らない気持ちになって。そっと額に口づけを落とし小声で囁いた。
家「おやすみ・・・麗亞」
そして自分もまた、このひと時のぬくもりに体を預けそっと目を瞑った。