第5章 【徳川家康・準備編 上】
信長様のお部屋にお茶を持って行く用事を言いつけられた私は、女中さんの用意してくれたお盆を持って、部屋にやって来た。
「失礼します、麗亞です。お茶をお持ちしました。」
声をかけても返事はなく、でも誰かがいる気配はするので、そっとお盆を廊下におろして自分もひざまずき、襖を少し開ける。
(あ・・・居た。夢中になって何かを話している?誰と?)
考えているのも時間がもったいないしお茶も冷めてしまうので、開けるときにもう一度声をかける。
「失礼します。麗亞です。」
スッと襖が開くと、信長様がこちらを見やる。
長「麗亞か・・・。」
「信長様お茶をお持ちしました。外で声を掛けてもお返事が無かったので入ってきてしまいました。」
長「構わぬ、打ち合わせに集中していて聞こえなかった。」
畳にはどこかの地図とその反対側には家康が座っていた。
「何処かで・・・戦があるのですか?」
私が信長様に問うと、信長様は、フッと優しい微かな笑みを浮かべ。私に話した。
長「案ずるな・・・戦ではない、近隣の村の山で大量の松の倒木ができてな。木が古くなっていたものや、今までの災害で倒れて居たものも含め撤去せねば今度豪雨などでもあれば、その村に押し寄せてくるであろう。」
「そんな・・・。それじゃ村人が・・・」
家「だから、俺が今回その松の木を片付けに行く。2日も有ればなんとかなると思う。」
「そうなんだ・・・。じゃ、年末やお正月には皆無事に年を迎えられるんだね。良かった・・・。」
私はそのことを聞いてホッと胸をなでおろした。その顔を見て信長がぽつりと呟く
長「お前は、他人の事も自分の事のように考えるのだな。お前がいちいち気に病むことではないのに。」
それを見て家康も微かに微笑みながらいう。
家「ほんと、お人よし何だから相変わらず。」
「あのっ・・でも、それでも自分だけ安全で守られてるのはなんか嫌で・・・。皆で笑って過ごしたいじゃないですか・・・こういうの、やっぱり甘っちょろいですか・・・?」
恐る恐る二人に問う。
長「嫌、それがお前の信念なのであろう?それならそれを貫くがいい。」
家「ほんとお人よしだとは思うけど。悪くないんじゃない?あんたらしくて。」
2人にそう言われてなんとなく心の真ん中が嬉しくなった。