第1章 *
沈黙が、痛い。どことなくバツが悪そうに挨拶をした光忠を綺麗にスルーして、鶴丸さんは私を見ている。そして光忠を見て、私が視線を彷徨わせる間も訪れる沈黙。冷や汗が流れ出した時、鶴丸さんが口を開いた。
「…光忠、少し彼女を借りるぞ」
「ええ、どうぞ」
「えっ!?ちょ、ええ!?」
一昨日の夜のように、鶴丸さんにガッチリ腕を掴まれる。その細い腕のどこにこんな力があるのかと不思議に思うほどの強い力で、逃げることを許されなかった。光忠といえば諦めたように後ろでひらひら片手を振るだけ。口パクて「がんばれ」と言われたが、何をがんばるのか私にはサッパリわからない。
強い腕に引かれるまま、辿り着いたのは人気のない倉庫。壁際に追い詰められて、何かを言おうとした私の唇は柔らかい何かで塞がれた。
「!?」
「ん…」
目の前で色っぽい声を出し、はむはむと唇を食み、整った顔が間近に迫っている人物は間違いなく鶴丸さんだ。固まって動けない私を良いことに、好き勝手に唇を貪られる。息継ぎのために開いた隙間から舌を差し込み、口内を舐め尽くすように蹂躙された。いつもの鶴丸さんからは想像もできない執拗さに驚きろくな抵抗もできず、息継ぎさえも惜しいというほどに噛み付かれるような口付けに必死でついていくのが精いっぱいだった。
「ちゅ、んっ…は…」
ぜえぜえと息を切らし整えている私を見て、鶴丸さんはニヤリと笑う。艶めかしいその表情を背筋をゾクリとさせながらも、必死で睨み返した。すれば、乙女が憧れるシチュエーションの壁ドンをかましてくるこの上司。一体何なんだと問い詰めると、アッサリ言ってのけた。