第1章 *
朝だった。
穏やかな微睡みの中で夢とも現ともハッキリしない曖昧な淵を彷徨う。とても幸せな時間だ。次いで、今日は何曜日だったかと考える。平日であるなら会社へ行かなければいけないが、休日であるなら多少惰眠を謳歌するくらいは許されるだろう。とりあえずあと5分だけ。そう思ってずり下がっている布団を持ち上げた時、違和感に気付く。家の布団はこまめに干している方だが、何となく、自分の部屋の者とは香りが違う気がした。嗅覚というのは半分眠っていても敏感に反応するもので、一度疑ってしまうとそれが気になって眠れないらしい。渋々目を開けて布団を確認しようとすれば、まず見慣れない部屋に数秒固まる。首を傾げながらむくりと起き上がろうとすると、腰に絡みつく強い力に阻まれた。恐る恐るそちらを辿れば、穏やかな表情で眠りこける上司の姿。全てを理解した瞬間叫び出したいのを必死で堪えて、悲しいかな、確認するのは傍にあったダストボックス。自分も彼もしっかり服を着ていたのも裏付けていて、どうにか一線は越えなかったようだと安堵する。
「…ん、」
胸を撫で下ろす猶予もなく、むにゃむにゃ言い出した彼が起きる前にと最低限の身支度を整えてダッシュした。身支度を整える間に、思い出させる昨夜の出来事。思い出すうちに自分に目立った非が無かった事に気付き、家に帰宅後はとりあえず軽く水を飲んでから一日寝て過ごした。今日が祝日で良かったとここまで強く思ったのは初めてだった。