第5章 汚れちまった悲しみに
和泉守に沈着を気取って言い聞かせたくせに、当の本人こそ不安で仕方無く、今すぐにでも座り込んでしまいたかったのだから世話がない。
しかしながら幸か不幸か。当時の現場は、まさに混乱の渦中にあった。
五虎退がワッと泣き出したのを皮切りに一気に動揺が伝染し、わんわんと泣いて座り込む者、兄弟刀の着物に縋り付く者などが次々と現れた。
普段は冷静に物事を見ているような気立てを持つ連中でも、予想だにしない事態にあられもなく戸惑いを見せていた。とにかくその時は、江雪と蜻蛉切とで場の混乱を宥めるのに必死だったよ。
そんな中で、幼子のような真似をしている暇も、先を憂いて嘆く暇も無かったのさ。
そしてその晩、僕たちはこの事件の核心に触れることになるんだ。
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“煌々と地上を照らしていた太陽は沈み、燃えるような夕日が辺りに落ち始めた頃、喧騒は男士達の疲れと共に消え去っていた。
倒れ込むようにして眠る者、膝を抱えて光の無い瞳をどこかに向ける者達で犇めき合い、部屋全体に陰りが漂っていた。
『…加州、遅いな……』
壁際に背を丸めて座る和泉守が、何気なく言葉を漏らす。
その呟きに、彼の望むような答えを持たない僕は、ただ『そうだね…』としか返せなかった。
彼はぐずる子どものように目元を歪めて、また顔を伏せる。抱える刀が御守りどころか、幼子が不安から抱き締める人形のようにすら映った。
その悲しげな姿はあまりに痛々しく、思わず目を逸らす。しかし、彼から目を背けたところで見るものは変わらない。
障子から差し込む夕日が焼く部屋の中、入れ物を失った器だけが転がるかのような姿ばかり。それはまるで、僕に現実から背けるなとでも言うかのようだ。居てもたってもいられず、その場から立つ。