第5章 汚れちまった悲しみに
『生半可な責任感だけでは、彼らの全てを背負う覚悟がなければ、この本丸の主など務まらない』
「───分かっています」
だが、それがなんだ。
「分かっています。えぇ、分かっていますとも。この立花陶子を小娘だからと侮らないで頂きたい」
背負う覚悟だとか、そんなことは遥か昔に分かっていた。時折不安になり迷いもしたが、もう腹は決まった。
清光を知り、彼らの叫びを知ったその時から。
「私は全て背負うと決めました。この部屋を暴いたのは私です。私には知る義務があります。私に教えて下さい。
私は──彼らと共に歩むと決めました。だから私はここに居るのです」
私は、“逃げてはならないのだ”。
歌仙は驚いたように私を見詰めていたが、やがて静かに笑うと「……そうかい」と呟いた。
ほんの少し呆けた顔をしていた清光だが、徐々に目に大粒の涙を浮かべるとぎゅっと私を抱き締めてくれる。清光の確かな温もりに、『彼は心を持った人間なのだな』と馬鹿馬鹿しくも改めて感じた。
皮肉かのように場に似つかわしく無い程 温かく心地良い風が吹き抜け、髪を攫っていく。
揺れる髪の間から見えたのは、風に釣られるようにして面を上げる歌仙だった。憂いを纏う美しい横顔は、この世の誰もの視線を奪い縫とめ離さないだろう。
「丁度、こんな日だったかな……」
ふと、思い出話をするかのように、歌仙はゆったりと口を動かしてぽつりぽつりと語り始める。
「彼女───先代の審神者によって僕が産み出されたのは」