第3章 この本丸には嘗て鬼が居た
第三章 『この本丸には嘗て鬼が居た』
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数十人の刀剣男士達を抱えるこの本丸には、彼等が不自由ないよう 銭湯の様な大浴場が設けられていた。
床は鉄平石のタイル張りで、柔らかい空間を演出している。清光曰く浴槽は檜で作られているらしく、檜特有の良い香りがし、刀剣達の疲れを癒す憩いの場となっていた。
だろう、本来ならば。
「ここは俺の知ってる風呂場じゃない」
「これがお前の知ってる風呂場だったら欠陥住宅どころじゃない」
二人揃って顔を顰め頭(かぶり)を振る。この風呂場の原型を知らない私も、事の深刻さを理解出来た。
床には緑の藻の様な何かとカビが発生しており思わず呻く。檜の浴槽は黒ずみ、腐り始めているのかヌメリが出来ていた。心做しか不快な臭気も感じる。
「こりゃひでぇな」
「誰も風呂入ろうとしてなかったからねー。みんなが風呂入ってるの見たのはー…半年前くらい?」
「マジかよ。え、じゃあみんな臭いんじゃね??」
「いや、特に臭いとかは感じないけど」
「いやいや曲がりなりにも人間じゃん。臭くないわけない」
苦行レベルの期間で入浴していない人間の身体が無臭とは、身体に消臭作用が働いてるとしか思えん。
「それこそ曲がりなりにも神様だし」
「ドルオタの“アイドルはうんこをしない”幻想の具現化かよ」
神は汚れなかった。(物理)