第2章 台所事変
「確かに、主のこと信用したわけじゃない。けどね、少し違うなとも思うんだよ」
「違う…?」
「口は悪いし、図々しいし、声もデカいし、ちょっと粗暴だし」
「おい めちゃくちゃ悪口じゃん」
王道で直球な悪口をぶち込まれる。王道なだけに殺傷能力は高く、確実に傷付けられた。ひでぇ。
「でも…」
不意に清光の弱々しい声が耳に触れ、反射的に顔を上げる。
「何か変に優しいし、こまごまと俺のこと気遣ってくれたり、やたらうるさいクセに黙ってどこかを見てる時の目が凄く優しくて、何だか悲しそうだったり…。不思議とアンタが悪い人じゃないって感じるんだ」
清光の言葉に目を見開く。他人にそんな風に言われることも、自分の事を詳しく観察される事も初めてで戸惑った。清光は落ち着かないのか、肩に流している自身の艶やかな黒髪を弄り始める。
「前の審神者と雰囲気っていうか、タイプが違うからそう感じたのかもしれないけどさ……その、」
他所を見ていた瞳を不意にこちらに向ける。じっと私を見据えると静かに唇を動かした。
「ちょっとだけ、信用しても良いかなって思った…」
照れ臭そうに放たれた一言が、私の奥底に染み込んでいく。
ちょっとだよ?!ホントにちょっとだけなんだからね?! 顔を赤くして突っ張った言葉を重ねてくる清光に、自然と頬が綻ぶ。
ああ そうか。だから私はここに居るんだ。
私をちゃんと見てくれる彼が居るなら、私も理解しようとしてくれる彼が居るなら、必要としてくれる彼が居るなら。
───清光が居るなら、私はそれだけでここに居る意味がある。
「ありがとう、清光。それだけでも嬉しいよ」
「はっ?!べ、別に本当にちょっとだし!」
「それだけで良いんだって。一気に信用して欲しいなんて思ってないし。 まぁ…私としては早く清光と仲良くなりたいけど」
「…だから何でだよ」
「未来の“親友”だからね」
そう言ってニッと微笑むと、清光は面食らったように目をぱちくりとさせる。だが次には顔が真っ赤に染まり、ガシガシと頭を掻く。
「〜〜〜ッッ!!ああもうっ、だから気が早いんだっつの、バカ主!!」
「照れんなよ清光〜」
「照れてないっ!!!」