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【刀剣乱舞】銘々取りゝ 我等は刀よ

第1章 一歩


それは兎も角、余程気に入ったのか加州君は飽きる事無く嬉しそうに鏡を見詰め続けている。その様子に私も思わず嬉しくなり目を細める。


「加州君。この口紅、あげる」

「え?!えっ、でも、」

「実はこの口紅、私には似合わないんだ。真っ赤な口紅って憧れてたんだけど、いざ付けてみたら全然似合わなくてさ。捨てるのも勿体無いし、どうしようかと思ってたんだけど丁度良かった。口紅もアンタに使われるんなら口紅冥利に尽きるってモンでしょ」



加州君は私の手の口紅を見詰め戸惑うように手を伸ばすが、直ぐに引っ込めてしまう。


「やっぱり、受け取れない。悪いし…」


怖々と視線を上げ私を見た。その瞳は相手の心の奥底を窺う目だ。
憶測でしかないが、この口紅を受け取る事で何らかの見返りを要求される事を恐れているのだろう。

相手の好意を素直に甘受する事が出来ない。その原因は、やはり前任の審神者の影響なのだろう。その場に唾棄したくなる衝動に駆られる。何をしたのか知らないが、奴が鬼畜生であることはよく分かった。私は怒りを鎮め、ゆっくりと息を吐いた。


「ごめんなさい。急にこんな事言われても困るよね。でも本当に受け取って欲しいだけ。これは軽いお礼みたいなものだから」

「お礼…?」


戸惑う加州君の手を取ると、その手に口紅を乗せて握らせた。



「あなたの事をたくさん聞かせてくれてありがとう。本当に、本当に嬉しかったの」

「別に、お礼されるようなことじゃ…」



俯く加州君の手を両手で包み込むと、ほんの少し強く握る。












「今日 あなたに一番に会えて良かった。ありがとう。私達きっと仲良くなれる。仲間として────そして親友としても」

「!」




驚愕に目を見開く加州君を他所に、私は先を続ける。


「だから受け取ってよ。これはほんのお近付きの印も兼ねて。ね?」


ゆっくり手を離すと、加州君は自分の手の口紅をじっと見詰める。深紅の瞳が微かに揺れたかと思うと、彼の唇が優しく弧を描く。














「親友は気が早過ぎんじゃない? “主”」

「そうでもないでしょ。“清光”」


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