第1章 心操人使◆世話焼き幼馴染み
心操人使のひそかな日課。
まだほの暗い朝方、隣の家に住む幼馴染み・なまえの部屋に窓伝いで忍び込む。
小さく寝息をたてるなまえが起きるよりもずっと前に、その柔らかな頬に触れ、ふわふわの髪に指を絡ませるのだ。
これ以上のことはまだ出来ないけれども、心操の至福の時であった。
「…なまえ、なまえ」
「んん…ひと…?」
毎日優しく揺り起こされて、なまえは目覚める。
『ひと』こと人使は、なまえにとって、兄のような存在で、幼馴染みだ。
「起きた?俺先行ってるから、着替えてから来な」
「はぁい…」
あくびをするなまえだが、昨日の出来事を鮮明に思い出していた。
それは同じクラスの女子との雑談中、たまたまそんな話になったというだけだが、妙につっかえていた。
「なまえって、なんでスカートそのまま履いてるの?」
なまえには最初、なんのことだか見当がつかなかった。
しかしよく見れば、周りの女子は皆、スカートの長さが短いのだ。
「あ、あれっ?みんな、スカート切ったの?」
「うーん…そうしてる子も居るだろうけど、大体このベルトで固定して…」
言いながら彼女はベルトを見せてくれたのだが、なまえには覚えのないデザインだった。
どういう風に使うのかもさっぱりだ。
「そーだ!あたし使ってないの今持ってるし、なまえにあげるよ!」
「えっ、いいの?」
「それだとなんか子供っぽいしねー」
「いい?なまえ、こうやってね…」
「あ、ヤバ!田中来た!」
田中とは、生活指導の教師で、彼が来たので、なまえにベルトが押し付けられ、その日使うことはなかった。
それよりも。何気ない会話の中で言われた『子供っぽい』の一言は、なまえを少し落ち込ませたのだった。
因縁のベルトを目の前に、これはどう使うのだろうと頭を捻らせる。
なんとなく分かった瞬間、ドアが勝手に開かれた。
「ひ、ひと!?どうしたの?」
いつもであれば、なまえが着替えていると分かっているなら、人使は部屋に入ってこない。
ところが今回はノックもなしときた。
幸い服は着ているが、ただ事ではないと、人使を見つめる。
「なまえ」
「…なに?」
「朝ごはん冷めるから、早く行こう」
「う、うん」
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