Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第10章 アヤカシとわたし《第3体育館組》
本殿の、ちょうど向拝の前にある階段に腰掛け、ポシェットから箱を出す。両隣の赤葦さんと蛍に1つずつ渡し、パクリとかじる。
『んん~、おいし~』
「これ、木葉亭のですか?」
『いい匂いがするなぁと思ったらお饅頭で』
赤葦さんと話す間、蛍はずっと無言だった。でも、咀嚼する度に、少しずつではあるものの、その表情は綻んでいった。
「ご馳走さまでした。ほら、蛍も」
「………どうも」
フイとそっぽを向いてぶっきらぼうに言う。よく見れば、ピンと伸びた耳とヒゲが忙しなく動いている。照れてる、のかな?
そんな様子の蛍に、赤葦さんと顔を見合わせてクスクスと笑う。ふと、ゆらゆら揺れる蛍の尻尾が気になり、つついてみる。と、
「わぁあっ!?な、何すんだよ!」
『ごめっ、なんか、気になっちゃって…』
ものすごい剣幕で怒られた。しおしおと謝ると、蛍は尻尾をお腹の前へとくるんと回す。
「くすぐったいんだケド」
『ごめんってばぁ、そんな怒んないでよ。お饅頭もいっこあげるから。ね?』
「ったく、だからニンゲンは…」
ぶつくさ言いながらも、わたしの手からお饅頭を取って口に入れる蛍。素直じゃないなぁと思い、小さく笑った。
そうしておやつを済ませた頃、ずっと気になっていたことを赤葦さんに訊いてみた。
『あの、蛍はいつからここに?』
「数年くらい前かな?にさ、神社の裏の森で見付けたんだ。すごく衰弱してたから、連れて帰って介抱してあげたんだよ」
元気になったので野に返そうとすると、蛍は嫌がったそうだ。どうするか考えあぐねているうちに、居着いてしまったらしい。
『そうだったんですか。じゃあ蛍は、赤葦さんのことが好きで、それでここにいるの?』
「ハァ?そんなワケないし、勘違いしないでくれるかな?ここに居れば飢え死にしないし冬も暖かいし。それだけだからね」
口はつっけんどんだけど、そう言う蛍の目はあちこちに泳いでいて、耳も尻尾もピコピコと動きっぱなしだった。
『帰りますね。赤葦さん、お邪魔しました』
「いえ、こちらこそ。そうだ、星菜さんさえよければまたいらしてください。蛍も珍しくなついているので」
「そんなワケ。もう2度と来ないでよね」
『ふふ、来週また来ますね』
そうして手を振って、わたしは帰路に着いた。