Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第10章 アヤカシとわたし《第3体育館組》
『あっ、待って!』
全力で駆けるキツネ君を、わたしも全力で追い掛ける。狛犬の回りをぐるぐるぐるぐる。まるで子供のおいかけっこだ。
これでも体力には自信があったのに、キツネ君との差はちっとも縮まらない。妖術でも使ってるのかと思ったが、それならとっくに逃げてる頃だろう。
そしてだいぶ疲れてきたところで、ギィ、と扉の開く音がした。振り向けば、社務所のから1人の青年が出てきたところだった。今度は正真正銘、人間だった。
「蛍、いったい何の騒ぎですか」
「赤葦さん、人、人がっ、来て、それで…」
「分かりましたから。落ち着きなさい」
たたたっとキツネ君は走り、その人の後ろにさっと隠れる。キツネ君、名前あったんだ。
「まさか結界を破るとは。驚きですね」
『け、結界?』
浅葱色の袴のその青年は、眠そうな目でじっとこちらを見てくる。それより、結界とはいったい何のことだろうか。思考を巡らせ、そして1つの結論に辿り着く。
『あ……まさか、鳥居をくぐった瞬間のあのピリッとしてたのって…』
「結界ですね。ここは妖怪達が多々出入りするので、普段は結界を。時々、貴女のように迷い込んでくる人もいるのですがね」
へぇ、そうだったのか。よく見れば、あちこちで妖怪の気配を感じた。
「えぇと、俺は赤葦、赤葦京治と言います。貴女の名前を伺ってもいいですか?」
『あ、あぁ、すいません!天草星菜です。あの、わたしその、視えるんです。たぶんそれで、結界を破っちゃったのかなぁ、なんて…』
「そうですか、貴女も。まぁそろそろ張り直さなきゃいけなかったんで、効力が弱まってたのかもしれないですね」
貴女も、ということは、赤葦さんにもきっと視えるのだろう。だとすれば、後ろのキツネ君も妖怪なのだろうか?そうは見えない。
「こら蛍、いつまで隠れてるんですか」
「だってコイツ、っ」
「コイツ、じゃない、星菜さんでしょう。ほら、挨拶ぐらいしなさい」
尻尾を不安気に丸め、忙しなく耳を動かすキツネ君。だが目線だけはしっかりこちらで、
「……………蛍、です」
たっぷり待った後に、そう言った。何をどうすればいいのか分からなかったので、わたしはキツネ君、改め蛍にこう告げた。
『お饅頭、食べる?』