Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第2章 立場違えど想いは1つ:京谷
「お嬢、それは…っ命令、ですか?」
お嬢の目が見開かれる。違う、オレが言いたいのはこんなことじゃない。それを知ってか知らずか、お嬢はふわりと笑う。
『命令じゃなきゃ…駄目、かしら……?』
その笑みが切なくて、儚くて。
「そんな訳、ありません。貴女の為なら、オレは本当に何だってできます」
それからそっと、耳元に口を寄せた。
「星菜……」
『けん、たろう……賢太郎、好きだよ』
「オレも、好きだ」
本当は、先に伝えたかったけど。
ぎゅうっと抱きしめながら、思う。女性は実は、男性より強いのではないだろうか。おじょ…星菜もそうだが、案外胆が据わっている。男なら躊躇するところを、サクッと乗り越えてしまうのだ。
「星菜は、強いな」
『そうかな。賢太郎の方が強いと思う』
「物理じゃなくて、心の方な」
こつ、とデコを小突くと、星菜はそこを押さえて照れたように笑った。
『こんなことを昔もしたな』
「10歳の、誕生日だろ?」
『っ、覚えてるの!?』
「当たり前だ」
星菜との想い出は、全部、大切に仕舞ってあるのだから。ふとした時にそれを思い出しては懐かしんでいたのだから。
「とりあえず行こう」
『どこに?』
星菜の手を引くと、星菜は立ち止まって後ろを振り返る。何やら背後の料亭、ドタドタと騒がしかった。
「未練は、あるか?」
『まさか。でも、花巻とか松川、岩泉に合えないのは寂しいな…可愛がってくれてたし』
「それなら心配要らない。いつか会える」
『そうなの?』
「ああ。まずは車乗れ。話はそれからだ」
星菜が後部座席に乗ったのを確認し、携帯を取り出して電話をする。
「あ、もしもし。はい、はい…スイマセン、それでお願いします、岩泉さん」
『けんたろー、早くー!』
「おう!…じゃあ、また後程……」
携帯を仕舞い、運転席に乗り込む。エンジン音が鳴ると同時に、料亭のドアが開かれる。
『賢太郎っ、急いで!』
「わーってるよ!」
ブォン!とフカし、急発進。ジェットコースターみたい、と後ろで星菜がキャーキャー叫ぶ。その反応が年頃の普通の女の子のもので、頬が弛んだ。