Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第2章 立場違えど想いは1つ:京谷
お嬢は外に駐車してある黒塗りのベンツの前にいた。地面を見詰め、両の拳をぎゅっと固く握りしめている。
お嬢が今朝、オレと打ち合いをした理由。
それはきっと、及川との縁談が原因だ。差し詰めオレと接触させないようにするつもりだったのだろう。もしそうなってしまえば、剣を交える機会など、一生ないだろう。
だからお嬢は、道場に来たのだろう。
ゆっくりと近寄ると、砂利の音に気付いたのか、お嬢がびくりと肩を震わせた。
「お嬢…」
『来ないでっ!』
鋭い制止が飛ぶ。だが、無視して歩み寄った。
『いやだ、お願い、来ないで!』
「嫌です」
『な…っ!?』
震えるその背中を、後ろからそっと抱きすくめる。ひゅ、とお嬢が息を飲むのが聞こえた。
「泣きたい時は、泣いていいんです」
『やだ……泣く、もんか…』
「泣くのは敗けじゃありませんよ」
『どうして、きょ、たにはぁっ!』
"そんなに、優しくしてくんのよ…っ"
途切れた言葉の先、そんなセリフが聞こえた気がして、腕の中のお嬢をますます強く抱きしめた。するとお嬢はくるりと反転し、真正面からオレに抱き付いてきた。
『う……っく、えぇん…ふぇ、っぐす』
「お嬢は立派です。意志を、曲げません」
『まげ、てばっかよ。跡継ぎ、に、なった時もっ、かあ様、がっ、死んだ、時もっ』
「表面はそうかもしれません。ですが奥では、心の底では、確固たる想いがあります」
『そん、なのっ!』
お嬢は嗚咽の合間に、微かな声で呟く。
『伝えなかったら、意味、ないじゃない…』
「では伝えてください」
えっ、とお嬢が小さく漏らした。
「お嬢の為なら、オレは何だってします。それはお嬢が、お嬢のことが…」
思わず、好きだからと、愛しいからと言いそうになった。だがそれは、禁忌だ。
「お嬢のことが、大切だからです。この世の何よりも、大事で、守りたいからです」
お嬢の小さな嗚咽が聞こえる。そしてポツリと小さな声が耳に届く。
『京谷…』
「はい、お嬢」
『私の事、お嬢なんて、呼ば、ないで』
「分かりました、星菜様」
『敬語も、要らない』
「分かった」
『だから、私の事…』
"好きに、なって……"
シャリン、鎖がほどけ、カチャリ、何かのカギが、開くのが聞こえた。