Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第2章 立場違えど想いは1つ:京谷
『ハァッ!ヤァッ!エイッエイッ!』
「もっと強く、力め!」
『ハイッ!!』
バシッ、バシンと、竹刀が防具や京谷の竹刀を打つ音が響く。胴ばかり狙っていると、京谷の面の守りが弛くなった。
『隙アリッ!!』
「甘いッ!」
バシッ。面を打つ乾いた音が、道場に響いた。
面と小手を脱ぎ、縁側に座る。うーんと背伸びをしてみれば、こきりと骨が鳴った。すっかり体が鈍っている。週に一度でも動いた方が良さそうだ。
足を出してブラブラさせていると、スポーツドリンクを2本持って京谷がやって来た。
「どうぞ」
『ありがとう』
キャップを開け、ごくりと飲む。爽やかな甘さが、乾いた喉に心地好い。
『いやぁ、やっぱり京谷には勝てないなぁ。最後の面、獲れたと思ったのに…』
「…お嬢は、踏み込みが弱いです。お嬢の太刀筋に、迷いが見てとれました」
『む、そうか?』
無論、そんなの自分で分かっている。勝負とはいえ、京谷を打つなど、本当はやりたくない。だがそんなもの、本番の、真剣勝負では意味が無い。私もまだまだ、だ。
「ここぞと言う時にグッと踏み込むのです」
『グッと、か?』
「はい。そして一番は、気です」
『気』
「必ず決める、という、心、です」
『心、かぁ…』
京谷の言葉に、ふと思う。
『踏み込みはきっと、人生でも大事だ。人生の、ここぞと言う時に決めなければ、その先は後悔だけで。つまらない、色褪せたように世界が見えるだろうな』
「そうですか」
『うん、きっとそうだ…』
私は、後悔ばかりだ。世界は、京谷がいなければきっと、無味乾燥としているだろう。私の世界が色付いているのは、京谷のお陰だ。
ふぅとため息を吐くと、京谷が口を開いた。
「お嬢は立派です」
『そうか?』
「はい。とても堂々としています」
『まぁ、この境遇を今更嘆いてもどうにかなる訳じゃあるまいしな』
「お嬢のそういう真っ直ぐな気性が、きっと人を惹き付けるのですね」
『ふふ、そうだと嬉しいけどな』
京谷の口からそんな言葉が出てくると思わなくて、意に反して顔が弛緩してしまう。
穏やかに流れる刻(とき)が美しくて。いつまでも続けばいいと思って、それを願ってしまったのは、どうしてだろう。
平穏が、続く保証などどこにも無いのに。