Volleyball Boys 2《ハイキュー!!》
第2章 立場違えど想いは1つ:京谷
『ん……夢、か………』
これはまた、随分と懐かしい夢を見たものだ。今からもう9年も前の事じゃないか。懐かしい。あの頃はまだ、子供だった。
だからあの約束が、どれだけ儚いものなのかも知らなかったのだ。
子供でいるというのは、本当に楽だった。何も考えなくていいし、何の責任もない。
すごく楽だが、すごく不安定だ。
自分に何の力もない、だから周りに流されるしかない。環境次第で、どんな子供も天才に育つし、どんな子供も不良になる。
『人生ってのは、実に不公平だねぇ…』
ぽつり、呟く。むくりと起き上がって着替えると、部屋を出た。部屋を出るとドアのすぐ横で待機していた2人の若いのが挨拶をした。若いと言っても、私よりずっと上だ。
『おはよう、花巻、松川』
「どうも」
「具合はどうですか、お嬢」
『いや、特にはないな。見張り、お疲れ様』
そう労うと、2人は律儀に礼をした。それから気まぐれに敷地内にある道場に言ってみると、中から掛け声が聞こえてきた。えいっはぁっ、というのと、ヒュッと何かが空気を斬るようなもの。
ガラリと引き戸を開けると、そこでは京谷が袴姿で竹刀を振っていた。
『京谷、おはよう』
「お嬢、おはようございます」
キチッと礼をする京谷。ふっと弛く笑って、道場に足を踏み入れる。木の匂いとほんの少しの汗の匂い。毎日のように剣の腕を磨いていたここが、とても好きだ。
『今日は朝から早いんだな』
「いえ、少し、妙な夢を見たので」
『ふぅん』
ん、そういえばいつから"お嬢"なんて呼ぶようになったんだ、この仏頂面は。
そうか、私が正式に跡継ぎに任命されてからだ。ええと、あれは12の時だったから、かれこれ7年も昔か。随分、前に感じる。
「お嬢?」
『ん、どうした?』
「考え事ですか」
『まぁ、そんなところだ。随分変わったなぁと思ってさ。私も、京谷も、ね…』
「…世は千変万化、諸行無常なんで」
『それも、そうか…』
うーむ、朝から重たい話だ。何か気分を変えられるもの…そうだ、剣だ。
『京谷、付き合ってくれるか?』
その手にある竹刀を指差すと、京谷は無言で頷いた。いそいそと自室に戻った私は、その口許が弛んでいたのを知らない。