第1章 約束 × 九条天 七瀬陸
「本当?!よかったね!!」
「ありがとう!海ちゃんのおかげだよ!」
「違うよ、陸ちゃんの実力でしょ!」
「ははっ。ありがとう。」
電話越しに聞こえる陸ちゃんの声は弾んでいた。
「これで、夢に一歩近づいた!」
「応援してるよ、陸ちゃん。」
「ありがとう。」
幼馴染の陸ちゃんは、子どもの頃から病弱で、入退院を繰り返していた。
そんな中、兄が見せてくれたショーの真似ごとが彼の唯一の楽しみだった。
大きくなるにつれ、“楽しみ”は“憧れ”に変わり、兄と同じように、たくさんの人を笑顔にしたいという思いからアイドルを目指すようになった陸ちゃん。
今日、オーディションの合格が決まり、電話をしてくれたのだ。
「合格したみんなと、一緒に寮生活することになったよ。」
「陸ちゃんが、寮生活?大丈夫?自分のこと、ちゃんとできる?」
「ちょっと海ちゃん!子ども扱いしないでよ!できるよ!自分のことくらい。」
「そっか。ごめん、ごめん。」
苦笑いする陸ちゃんの表情が目に浮かぶ。
「今日は帰ってくるの?」
「うん。帰るよ。」
「じゃあ、お祝いの準備して待ってるね。」
「ありがとう。」
「またあとで。」そう言って電話を切った。
それと同時に、テレビには人気アイドルTRIGGERが映る。
「新曲、かっこいいね~。」
「はい、ファンのみなさんはもちろん、それ以外のみなさんにも楽しんで頂ける曲になってると思います。」
司会の問いかけに笑顔で答える。
輝かしい世界に身を置く、私のもう一人の幼馴染。
陸の双子のお兄ちゃん。
「天…。」
彼を見ると、寂しい思いがこみ上げる。
「陸ちゃんも、天と同じ場所を目指してるよ。」
画面越しの天に声をかける。
天はただ、天使のように笑っていた。