第12章 暗躍する者嫌う者
「今日は初めて講義以外での護衛ですね。」
リョンヤン王子がハヨンのいる後ろを振り返って微笑んだ。
「そうですね、精一杯お守らせていただきます。」
リョンヤン王子は小さく頷いて再び歩き出す。護衛も従者も、主の後ろを歩いていく。横に立つものは彼らに劣らない力を持つものだけ。それは権力だったり財力だったりと様々だ。
(これはもし、リョンヤン王子と打ち解けても縮まらない距離だ。でも彼女達はそこに並びたいんだ…。)
何の目的かはわからないが、リョンヤン王子がいつか大事な人ができるなら、それはできるだけ心の優しい人がいい、とハヨンは考えた。
(美しい悪女もいるって言うし…。)
近隣の国で、美女を溺愛した故に身を滅ぼした王が何人もいることを思い出す。
(愛とかよくわからないな…。)
母チャンヒや師匠のヨウを大事に思う気持ちとはまた違うのだろう。ハヨンにはさっぱりわからないが、でも知りたい訳でもなかった。
(いつかあの人に恩を返せたら、私はそれで十分だ。)
ハヨンは腰に下げている刀の鞘をそっと撫でる。
例え遠い未来でも、ハヨンには一歩ずつ近づいている実感があるので、なんとも心穏やかなものだった。
「すみません、書庫はここです。」
リョンヤンは鍵を開けて入っていく。
ハヨンは中に何も怪しい人物はいないか確認した後、戸口に戻り、そこで見張りをする。
「持っていきたい図書がたくさんあるので少し時間がかかると思います。」
リョンヤン王子が少し離れたところから、声の音量を少し上げて話す。
「わかりました。いくらでも待ちますので、気兼ねなくお探しなさってください。」
ハヨンは初めてのまともな警護に少し胸を踊らせた。